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2010年06月30日

明日の空
明日の空

貫井 徳郎
集英社
単行本




帯に惑わされるな!と常日頃から自分へ言い聞かせているわたくしでございますが、10年ぶりの書き下ろしとか書いてあると、やっぱり気になってしまうじゃないですか。短い時間でさらりと面白いものが読みたい気分でもあったので、買ってみましたがなかなかの佳作ではないかと思います。

169ページで段組でもないので、人によっては小一時間くらいで読み終えてしまうのではないでしょうか。率直な感想を言うと、「10年に一度の傑作!」だとか「驚天動地のトリック!」といった期待をしなければ、十分に楽しめる作品だと思います。

詳しくはいえませんが、ミスリードが上手いので無意識に構えて読んでたのに、あっさり騙されてしまいました。「え、こんなトリックが!」と言うのではなく「ああ、そうきたか」的な思いがあり、心が大きく揺さぶられる感じはしないのですが、読了感は爽やかで、有意義な読書が出来たかな、といった按配です。

貫井氏の作品の入門編としては、かなりとっつき易いのでオススメです。

2010年06月09日

造花の蜜
造花の蜜

連城 三紀彦
角川春樹事務所
単行本




連城三紀彦氏の作品は今まで手にした事がなく、世評からは流麗な文章でのミステリーを書かれているらしい、といった印象がありました。そのせいか、最初読み始めた時は「意外と平易で読みやすい文章になってるなぁ」と思ったのですが、要所要所でアクセント的に流麗な文章が出てきて、今まで聞き及んでた香り高さを目の当たりにしたのでした。

ジャンルとしては誘拐ミステリーと言えますが、世間の誘拐モノとはかなり趣が違います。この奇妙な感覚を以前も味わった気がする……と思い起こしてみれば、『嘘喰い』のラビリンス編の導入部分を読んでいた時がそうでした。

とても何か変な雰囲気ではあるけれど、表向きは危険そうには思えない。しかし、何かがこの先起こるような気がしてならない。それがどんな事なのかは、全く想像もつかないんだけれど……という、あの時の漠然とした感じ。

煙に包まれながら、二転三転する展開を潜り抜け、この作品の終着点に何が待ち構えているのか。存分なエンターテイメント性を満喫してみてください。

2010年06月07日

噂


荻原浩
講談社
単行本




あえて文庫本ではなくハードカバー版で紹介するのは、理由があります。文庫本だと帯に余計な事が書いてあるのです。Amazon の画像にまでもが帯つきなのです。俺的にはネタばれ全開一歩手前って感じなのです。

この本に興味を持ってもらう、という目的であの紹介文を書いてるのは分かるのですが、もうちょっここう、何かもう少し違う表現は無かったんでしょうか。

これから初めて読まれる方々には、アレをやってもらうしかないですね。

それでも町は廻っている7巻

まぁ図書館で借りれば余計な帯はついてないので大丈夫そうですが*1。できればこれ以上の前知識は無しで読んで!とだけ書いて終わらせてしまいます。

いえ、帯の代わりになるような紹介文を書くのがムリ、って思ったわけじゃないですよ?
  • 注1 : 実家の図書館だと、すごく親切なことに帯まで書籍内に貼り付けてくれてるんですが、残念ながら本書だと親切が仇になりそうな気がします。

2010年06月05日

Another
Another

綾辻 行人
角川書店(角川グループパブリッシング)
ハードカバー




綾辻氏が描く、ホラーとミステリーが融合した世界。

こう聞くと思い出すのが、『緋色の囁き』です。昔は小説の類はまったく読む事がなかったものの、今は無きゲーメスト誌にていしいぜんじ編集長がオススメしてたので何となく手にした結果、「本格ミステリー、そういうのもあるのか! 文学とかばっかり読んでる場合じゃない、世の中にはこんな面白い本があるんだから!」とミステリー病に罹患してしまったのも良い思い出ですね。言ってしまえば、綾辻氏が居なければミステリー界に足を踏み入れなかったかもしれないのですから、自分にとってはかなり特別な意味を持つ作家さんです。

そういうわけで自然と思い入れが深い作家さんなので、この作品を読む時はいろいろと思うところがありましたが、そんな思いとは関係なくスラスラと読み終えてしまいました。かなりの分量のはずなんですが、とても読みやすかったです。

ホラーとミステリーの融合、という点で見ると、個人的にはホラー90%・ミステリー10%といったカクテルに思えました。作品を包み込む怪しいホラーとしての雰囲気を重視しつつも、作品内で独自のルールを用意しつつ、そのルールの隙をついて読者を欺くあたり、ミステリーとしても面白かったです。

ミステリーとして解決すべき点は伏線も改修してしっかり終わらせ、そうでない部分はあやふやなままになっているところが、かえって作品の怪しさ・雰囲気が壊れなかったので良かったですね。
さよなら、ジンジャー・エンジェル
さよなら、ジンジャー・エンジェル

新城カズマ
双葉社
単行本(ソフトカバー)




『15×24』(感想)の新城カズマ氏の新作、という事で手にしてみました。氏が他にどんな作品を書かれてるのか、気になっていたタイミングだったので、割とすんなり手にしてました。

表紙の印象からして、ジュブナイルSFっぽい感じで、読みやすくなってます。しかし、氏の作品らしく、架空言語とか Twitter とかが作中に出てきて良いアクセントになってて、らしいなぁとニヤリ。あと、他作品のキャラクターが登場したので、これまたニヤリ。

ただ、読了した時にカタルシスとかは余り感じませんでした。面白かったし、終盤では意外な事実が判明したりするんで、読んで損したという事は全くないんですが。この辺りの印象も加味すると、ハードカバーではなく、ジュブナイルモノとして売り出した方が読者層的にあってたのかも……という気がしないこともないです。表紙絵の女の子が作中でも微笑ましい雰囲気だったので、その辺りを押しても良かったかも(ただ、そうするとあまりにも氏の作風と合わなくなりすぎかも知れないので、違う気もしてます)。
ソロモンの犬
ソロモンの犬

道尾 秀介
文藝春秋
文庫




道尾秀介氏と言えば、個人的には『向日葵の咲かない夏』(感想)の印象が強くて、暗い雰囲気のミステリーの作風と思ってしまうのですが、本作を読んでると瑞々しい青春モノ*1も得意とされているのだよなぁ、と改めて思ってしまうのです。

氏の作品の中でも、主人公が割とコミカルな感じだったのが好印象でした。口に出して道化のようなことを言うわけではなく、心中で若さが見えるようなつぶやきをしてくれるので、なんか見てて微笑ましかったです。

一番印象に残ったシーンは、ラストの「この前、静くんがいい匂いだって言ってくれたから」と言いながらTシャツの胸の辺りをつまむところでしょうか。あざとさが無い自然体な感じで、キャラの魅力がにじみ出てると思います。

ミステリーとしてみると、主人公が死ぬのではというミスディレクションがお見事でした。よい意味で文字通りの夢オチで、心地よく騙していただけました。軽い気持ちで手に取り、つらつらと読み進め、面白く読み終えた、といった感じで良質のエンターテイメントだと思います。
  • 注1 : 例えば『ラットマン』(感想)。とある女の子の「別にいいのに」というセリフは、短いながらもそのシチュエーションなどもあって、印象に残ってます。
紫色のクオリア
紫色のクオリア

うえお 久光
アスキーメディアワークス
文庫




普段だったら表紙を見たら手にしそうにないのですが、『シュタインズゲート』のスタッフが名前を挙げていたという事で、見た目に騙されてはいけないはずだと信じて読んでみました。

もう少し軟派な雰囲気になるのかと思ってました。確かに会話や文体などはこの手のライトノベルとしてのスタイルに準じておりますが、中身としてはなんとも奇妙で硬派な設定で、根底にはハードSF的な思想が根付いていました。

話のストーリーそのものよりも、むしろこの変わった構築に驚かされた次第です。この感覚は、『カオスヘッド・ノア』(感想)に近いものがあるかもしれません。

平行世界モノの中でも、なかなか変わった趣向の作品だと思います。一度手にとってしまったのであれば、少しくらい読みにくいと感じても挫折せずに読了してみれば、その努力に値するだけの特殊な読書経験を得られるのではないでしょうか。

2009年11月22日







ライトノベルは殆ど読まないのでライトノベル界については疎いんですが、全6巻が毎月刊行、『街』や『428』が好き人にオススメできる群像劇、といった紹介文を見てると、普通のライトノベルとは毛色がかなり違うのではなかろうか、と思って手にしてみました。

うん、これは面白い。オススメ。

これだけで終わろうかと思ったんですが、出来のよさには比例しない売り上げみたいなので、少しでも面白さをアピールしておきます。

まず、文章がかなり読みやすいです。ライトノベルだから当たり前でしょ、って思われるかも知れませんが、平易で分かりやすいという意味だけではなく、多数の登場人物が次々出てくるのに読んでて混乱しない、この点が凄いな、と。

すらすら読める上に、先の展開が気になるような作りになってて、手にしたら読むのを止めるのが困難です。一気に三巻まで読んでしまって、このあと刊行後に一巻ずつしか読めないのかと思うと、ムズムズしてしまいます。早く続きが読みたい! 『24』といった海外ドラマを見てる人は、こんな思いなのかな。

作者の新城カズマ氏のサイト(はてなダイアリー!)では、面白い読者参加企画も登場してて、かなり凝ってますね。作中のとある事に対して推理して正解したら、なんと最終巻に自分を登場させることが出来るとの事。「〆切は12月5日です」とあるので、今月末の4巻を読了した時点で、推理するための材料は全てそろうことになりそうです。4ヶ月連続刊行ってことは、たぶん大晦日あたりに最終巻出るはずなので、よくもまぁギリギリまでこういう企画持ってくるなぁ、と素直に感心しました。

あと、推理が成り立ちそうってことで、何某がなく頃にみたいな、トンデモ系な真相ではないようなので、その辺りも期待してます。正解率1%って件について考えると、どうしてもこの画像のことを思い出してしまいます。

問題



作者の方の性格や作品の雰囲気からすると、こういう事はなさそうなので(むしろあったら驚愕します)、素直に推理が楽しめそうです。あとは、手に取った人がどのタイミングで楽しむか、ってだけですね。

いつ楽しむか、で思い出したのが、PS3の『SIREN』のことです。

SIREN: New Translation
SIREN: New Translation

ソニー・コンピュータエンタテインメント
PLAYSTATION 3
2008-07-24



当サイトで感想とか書いてないので察してもらえそうですが、正直言うと期待してたほどの出来じゃありませんでした。偉大なる初代の劣化版にしか思えません。グラフィックは確かに凄くなってるけど、肝心のストーリー関連がイマイチだったのでガッカリしたんです。

この作品は実は変わった販売方法が取られていました。パッケージ販売の前に、ダウンロード販売が事前に行われ、パッケージ版の発売日にむけて、一日ずつタイマー式でプレイできる章が解除されていったのです。それはあたかも、TVドラマを毎週見て、感想や次週どうなるのかを楽しむ、といった按配です。2chでその様子を後からうかがい知ると、これがえらく楽しそうだったんですよ。ライブ感というか、そういう部分が。そういうわけで、オススメするにしても二種類あるかと思いました。

リアルタイムに推理も含めて楽しみたい人は今すぐ飛びつけ!

後から一気に読みたい人は年末に全六巻が出揃ってから飛びつけ!

まぁ結局のところ、飛びつけ!って言いたいわけですが。何はともあれ、今年の年末に向けて、また一つ楽しみが増えました。どんなラストシーンが待っているのか、みんなで確かめてみませんか?

2009年01月14日

螢


麻耶 雄嵩
幻冬舎
単行本




仮に『夜光館の殺人』というタイトルだったら、「綾辻行人氏の新作だ」と勘違いしてしまうくらいに雰囲気的には館シリーズに近いものがあります。そう、古き良き新本格派ミステリーの雰囲気です。

だから最初は、あの麻耶雄嵩氏の作品なのだろうか、という懐疑心に似た思いで読み進め、ミステリー系をある程度嗜んでるせいからか「ああ、あのトリックかなぁ」と思い、意外と今回は大した事ないのかなぁ、普通っぽいなぁ、らしくないなぁ……と誤解してたら、幸運な事に今回もしっかり騙されました。

叙述トリックがもう一方の叙述トリックのミスリーディングになっている辺りも見事で、こういうやり方もあるのかと感心しましたが、作中人物だけ気付かず読者は分かっているトリックと、読者は気付かず作中人物は分かっているトリックという対比も凄かったですね。麻耶雄嵩氏がこういう新本格派的な精密なトリックを仕掛けてくるとは、意外でした(良い意味で)。

と思ってたら、ちゃんと最後は氏らしいカタストロフィが用意されてて、唖然としました(良い意味で)。らしいなぁ、意味深だなぁ、と感心しつつ、読了後はネットで検索をするしかありませんでした。本当にとんがった作家さんだと思います(良い意味で)。

2009年01月04日

ゴーレム 100 (未来の文学)
ゴーレム 100 (未来の文学)

アルフレッド ベスター
国書刊行会
単行本




アルフレッド ベスターと聞いてピンと来る人は少ないかも知れませんが、ちょっとSFをかじった事のある方なら『虎よ、虎よ!』の作者と言えば分かっていただけるかも知れません。そうです、これはかなりのブッとんだSFなのです。センスオブワンダー、ここにありき。

精神世界を扱った未来SFなんですが、構成や表現がとにかくトんでます。多彩な視覚的描写、猥雑とした未来社会、怪しげな宗教、といった感じでスチームパンクというか、もう超スチームパンク。インパクトのあるイラストとの相乗効果と合わさって、怪しさ炸裂しまくりです。一部古臭さは感じるかもしれませんが、これが1980年に書かれたのかと思うと、時代を超えた作品だなって思います。

特筆すべきは訳文の泥臭さでしょうか。一時期は翻訳の難しさから出版不可能ではないかと言われていたらしいですが、そういう事を感じさせない生き生きとした文体です。とは言っても、読みやすいかと問われれば、んなこたねえッスと言いきりますが。癖がある文体と表現すべきだったでしょうかね。

何はともあれ、あの猥雑な言葉による実験っぷりを、よくもまぁ翻訳できたなぁ、と感心しました。そういう意味では、最終章とか必見です。なんだこりゃすげえ、としか言いようが無いっすわ、アレ。でも一番驚いたのが、本書の翻訳がわずか一ヶ月ほどで完了したという事実です。作者も天才ですが、訳者も天才ですね。

既存の小説に飽きたなぁ、って人は物珍しさから手にしてもいいかもしれません。海外作家ならではの破壊力は、ぜひ味わっていただきたいところです。
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