え、これって……
メイド喫茶じゃ?!
「会員証を持ってると、ポイントがつくんですよ!」
嬉々として会員証をメイド喫茶の看板の前で見せてくるクズ男さん、それを妙に無表情に見つめるキタコーさん、なんとかこの場をフォローしないとまずいと思う俺。
「……ポ、ポイントがつくと、なんかお得なんですか?」
「ポイントがたまると、ランクが上がるんですよ!」
キタコーさんの視線が一層シビアな色合いになってきました。ま、まずい……
「……ラ、ランクって何ですか?」
「ランクが上がると、メイドさんと一緒に写真を撮ってもらえたり、サービスが増えるんですよ!」
聞くんじゃなかった。
さて、どうしようか。キタコーさんは本気で嫌がってます。俺もあんまり入りたくないです。しかし、一度くらいなら中を見てみたい気もします、怖いものみたさで。二度は入らなくていいでしょうけど。それに先日キタコーさんには嫌がらせをうけたばかりでした。
<回想シーン>
「この前アクセス解析見てたら、なんか怖い検索結果が出てたんですよ」
「嶽花さんってホントにアクセス解析好きなんですね」
「だってたまに、「虎眼 パンチラ」とかで検索してくる兵もいて面白いじゃないですか」
「で、どんな検索結果だったんです?」
「嶽花 アナル、だとか嶽花 乳首だとか、検索ワード見て身に危険を感じたのは初めてでしたよ」
「あー、それ、俺ですよ」
「は? アレってキタコーさんだったの?」
「この前、土曜出勤になってムカツくなー、って思って、会社でイライラしながら誰かに嫌がらせしてやろうと思って試しに検索してみたんですけど、たいていの言葉で検索にヒットしてくれましたよ」
「はぁ、そうですか」
「今度は嶽花 クスコーとかで検索しておきますよ」
「いえ、もうお腹いっぱいです」
</回想シーン>
あれから色々考えてたんですが、いい報復手段を思いつきませんでした。「キタコー アナル」とかで検索しても自分のサイトがヒットするだけで憂鬱な気分にしかなりません。
「じゃ、メイド喫茶に行ってみましょうか!」
俺が反対すると思ってたのか、かなり驚くキタコーさん。勘弁してくださいよーとか言い出してきました。
「これも一つの人生経験だと思って、行ってみましょうよ!」
こんな経験いらないとかモゴモゴ言うキタコーさんの意見を黙殺し、多数決という実に平和的かつ民主的な手段により、メイド喫茶に突入することになったのでした。
エレベーターの前で待ってると、帰り客とおぼしき人々が降りてきました。リュックサックを持参し、ビームサーベルみたいにポスターの筒が刺さってます。もちろん全員メガネ。これから自分が行くのがどういう場所なのかが想像できます。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
そう言われて素でヒいてる時点で自分はここに来るべきじゃなかったんだな、と遅すぎる後悔の念をかみ締めつつキタコーさんを見てみると、魂が抜けたように無表情でした。あれをデジカメに撮影してなかったのが偲ばれますが、店内はメイドさんの撮影が禁止との事であらぬ疑いをかけられるのもどうかと思って諦めました。
そして席に着き、周りの独特な雰囲気に圧されました。我々はメイド喫茶に来たとばかり思ってたのですが、魔界に足を踏み入れていたようです。下を向いたままひたすらPDAを操作してる陰気な若者や、メイドさんにエロゲーテクニック?を教えて一人だけ得意げになってる脂ぎった若者だとか、居心地の悪さは想像以上でした。メイドさん見てるよりも周りの客を見てるほうが面白いです。
とりあえず来てしまったからには何か頼んで店を出るしかないな、とメニューを見てると、キタコーさんが嬉しそうに一つのメニューを指差しました。
「嶽花さん、コレ、コレいきましょう。ケチャップでオムレツで字を書いてもらうサービスがありますよ。メイドさんは写真不可だけど、オムレツは大丈夫だそうですし」
「え、なんて書いてもらうつもりなんですか。憂鬱? 薔薇?」
「そんな嫌がらせみたいな漢字じゃなくて、今日は嶽花さんにふさわしいグッズを持ってきてるじゃないですか」
「……Wii リモコン?」
「そう、プラチナ会員様じゃないと貰えないわけですから、ここはもう……」
「プラチナ会員様とケチャップで書いてもらうしか?」
無言でうなづくキタコーさんとクズ男さんの真剣な眼差しをみて、俺も無言でうなづくのでした。そしてメイドさんに「え、プラ……プラチなんですか?」とオロオロされてしまい、やはりやめておけばよかったと後悔するのでした。
そんなこんなでこんなん書いてもらいましたけど。
そしてそのあとゲーセンに行くと、すでにメイド喫茶に足を踏み入れたという情報があたりを駆け巡ってました。クズ男さんを見ると、目を逸らされました。そしてプラチナ会員様というリングネームでストIII大会に参加したり、大会が長引いて肝心のDS対戦がほとんど出来なかったり、キタコーさん持参のDSにささってたDSお料理ナビの伝言メモに「シンラくん、くうきよめていないよね」と記録されてるのを見て大分ストIII勢の絆の強さを感じたりしつつ、深夜に帰宅しました。
「ダーリン、遅かったね」
「なんかいろいろ遊んできたよ」
「ふーん。おなか空いたから、ポテチ買ってきてよ」
「えー、なんで帰ってきたばっかりなのに」
「ポテチ買ってきてよ、プラチナ会員様」
「えー」
「コーラも忘れずにね、プラチナ会員・さ・ま!」
「ええー」
「口答えするの?! プラチナ会員のくせに! いいから買ってきて!」
これ以上プラチナ会員という存在を汚されたくなかったのでイヤイヤながらも買ってきたんですが、なんでついでにスルメも買ってこないの気が利かないねまったくと怒られました。プラチナ会員の存在意義について考えるときがやってきたようです。